多頭飼いについて 〜家庭犬しつけインストラクターからのアドバイス〜
犬との生活を始めて、犬が身近にいる暮らしに慣れてくると、「1頭だけでもこれだけ楽しいのだから、犬がもう1頭いるともっと楽しいに違いない」と、新たに犬を迎えることを考え始める方が多いようです。また日中留守がちな生活をしている方が、「犬の友達がいると留守番もさみしくないかもしれない」という理由で2頭目を迎えることにしたという話もよく聞きます。新たに犬を迎えるきっかけは様々ですが、家族を増やすと決めた以上は、先住犬(もともと家にいた犬)も、新しく迎える犬も、人間の家族も皆がハッピーに暮らせるように、今回は、多頭飼いについてお話ししてみたいと思います。
複数の犬と一緒に暮らすことを「多頭飼い」といいます。犬と猫など種類の違うペットと暮らす場合も多頭飼いということがありますが、今回のコラムでは、2頭以上の犬と一緒に暮らす場合を想定してお話ししていきます。
まず、多頭飼いの良いところ、大変なところについて考えてみましょう。犬にとってはどうか、人にとってはどうか、と異なる視点からも見て頂きたいと思います。
まず、多頭飼いの良いところは、家の中に犬が増えて、賑やかで楽しいということでしょう。相性の良い2頭以上の犬が一緒に遊ぶ様子を眺めていると、こちらも楽しい気持ちになります。遊んでくれる相手がいると、犬同士で追いかけっこしたり、おもちゃの引っ張りっこをしたりしながらパワーを発散できて、しっかり遊んで、電池が切れたように寝るという健全な暮らしができそうです。飼主が疲れていて遊び相手になれないときでも、犬同士で遊んでくれて助かるということもあります。また、犬同士の遊びの中で、これまで1頭では気づかなかった様々な表情も見せるので、とても面白いものです。シニア犬で動きが緩慢になりあまりおもちゃ遊びをしなくなった犬でも、新しい犬が家族に増えると若返ったように少し活発になることもあります。
では、多頭飼いの大変なところはどのようなところでしょうか。必ず言えることは、犬が1頭だけの場合と、2頭の場合では、様々なコストが増えるということです。ドッグフードなどの食事代、毎年の予防注射の費用、動物病院での診察代、治療費、もし何かの事情で犬をペットホテルなどに預けることがあればその宿泊料も2頭分になるということです。また、犬の年齢が近いと、若い間は同じようなパワーで遊べて良いのですが、年を取るのも同時期なので、介護のタイミングも重なってしまい、飼主には負担が大きいことも考えられます。しつけの面からは、先住犬が玄関チャイムに吠えたり、要求吠えをしたりするのであれば、新しく迎える犬も早い段階でそれを学んでしまうなど、先住犬のしつけができていないと問題行動はより深刻になりがちです。
多頭飼いをする前には思いもよらなかったことで苦労する場合もあります。それは、先住犬と新しく迎える犬の相性が合わなかった場合です。もちろん、新しい犬を迎えてしばらくの間は、突然家族になった相手のことがまだお互いに分からず、先住犬も、新しい犬も落ち着かないことでしょう。いきなり今日から家族だからよろしくと言われても、犬には理解できないことです。ただ、どちらか一方が、犬同士のコミュニケーションが極端に苦手な犬だとすると、自分以外に犬がいるということが大変ストレスになり、その結果、逃げ回る、噛み付かんばかりに向かっていくといった結果になりかねません。よく言われるように、何でも先住犬を優先すれば良いという単純なものではないのです。
先住犬は他の犬が好きですか?まずは、そこをよく考えてみてあげて頂きたいと思います。家の外で他の犬に出会ったときに、他の犬を避ける、怖がる、こちらに来ないでと吠えるといった行動が見られる場合、もしかすると、生後3ヶ月齢までの社会化期までに犬同士のコミュニケーションを学ぶ機会が少なかったために他犬が苦手なのかもしれません。あるいは他犬との間でトラウマになるような出来事があったのかもしれません。もし、他犬が苦手な場合、自分の苦手な存在がある日突然家にやってくるわけですから、家での落ち着いた生活が一転してしまい、ストレスに感じることもあるでしょう。
そもそも、犬は「友達が欲しい」と思っているでしょうか?犬の友達がいない犬は不幸でしょうか?犬は大好きな飼主がいて、安心して暮らせる家があり、十分な食事と運動が取れていれば、ニコニコと穏やかな笑顔を見せてくれて幸せそうです。もちろん、気の合う犬同士で遊んでいるところを見ると、とても生き生きして見えます。きっと友達が欲しいだろうと想像してしまうのも当然です。ただし、どんな犬でも友達になれるのかというと、やはり犬同士相性もあります。良かれと思って迎えた新しい犬が、あまりに激しくて辟易する。追いかけ回されて、クローゼットに隠れてしまう。そんなお悩みは多頭飼いを始めて間もないご家庭からよく相談される内容です。もし、日中留守番させて寂しい思いをさせる罪悪感から新しい犬を迎えるという方は、必ずしも2頭になれば犬がハッピーになるとは限らないということを覚えておいて頂きたいと思います。
実は、多頭飼いが成功するかどうかは飼主次第と言えます。まずは、犬のためではなく自分自身のために新しい犬を迎えると思って、犬任せにはしないことです。多頭飼いにしてどのような理想の暮らしになることを望んでいるのかをイメージしながら、先住犬との関係をさらに深め、新しく迎える犬との関係も築いていきます。一緒に過ごす時間が増えてくると犬同士も少しずつ慣れていくでしょう。うまくいきやすい組み合わせとしては、先住犬が歳をとりすぎていないこと、そして同じ犬種同士だと遊び方のパターンも似ていて、うまくいくことが多いように思います。先住犬と相性の合う犬を選んで迎えてあげることができれば、先住犬にとってはストレスが少なくてすみます。
先住犬はどのような犬でしょうか。若い犬なのか、シニア犬なのか。おとなしい性格なのか、活発な遊び好きな性格なのか。散歩は好きか、他の犬との関係はどうか、おもちゃ遊びが好きか、食欲は旺盛か、持病はないか、しつけの問題はないか。先住犬がおとなしい性格または散歩にもあまり行きたがらないぐらい歳をとった犬の場合には、2頭目の犬を迎えることで、先住犬が体調を崩してしまうことがないように穏やかな性格の犬を迎えると良いかもしれません。もともと活発な性格で他の犬と遊ぶのが大好きな若い先住犬であれば、2頭目を迎えると喜んで一緒に遊ぶかもしれません。
次に、新しく迎える子はどのような犬でしょうか。子犬なのか、成犬なのか。ブリーダーやペットショップから迎える子なのか、保護施設からやってくる子なのか。こわがりな性格なのか、元気いっぱいな性格なのか。散歩に連れて行くことができる月齢なのか、健康状態はどうか、しつけの問題はありそうか。2頭目に子犬や若い犬を迎える場合によく起きるのは、とにかく構ってほしくて先住犬を追いかけ回し、先住犬が逃げ回るということでしょう。新しく迎える犬はまだきちんとしつけができていないことが多いので、手がかかります。時間と気持ちに余裕をもって臨む必要がありそうです。
もし、先住犬と新しく迎える犬の年齢が離れていたり、体格差が大きかったり、性格がずいぶん違う場合には、いきなり初日から24時間一緒に過ごさせるのではなく、先住犬にはこれまでの生活リズムをある程度継続して過ごしながら、少しずつ新しい犬を紹介していくのが良いでしょう。犬同士に任せすぎるのではなく、必要に応じて交通整理をすることで2頭の距離が早く近づく手伝いにもなります。私が新しく犬を迎える場合には、先住犬と散歩に出かけたり遊んだりする時間を持ちつつ、新しい犬とだけ一緒に遊ぶ時間も設け、さらに私と2頭が一緒に遊ぶ時間も作り、少しずつ犬同士の間合いを詰めていくようにしていきます。犬同士の関係に任せていると本気で喧嘩をしてしまうこともあり、お互い怪我をするかもしれません。飼主と先住犬の関係ができているところに、飼主と新しく迎えた犬の関係も築いていき、先住犬、新しい犬の両方に必要なしつけをしていけば、何かトラブルになりそうな場合でも、「おいで」とそれぞれの犬を呼び寄せて一触即発のピンチから救ってあげられると思うのです。
上記のことからもお分かり頂けるかと思いますが、多頭飼いにするタイミングは、先住犬のしつけがある程度整った後の方が良いでしょう。まだまだトイレのしつけができていない、実は無駄吠えで悩んでいるといった段階で新しい犬を迎えてしまうと、問題がさらに増えて頭を悩ませることになってしまいます。
幸いにして犬同士が仲良くなった場合でも、仲良くなりすぎて別行動ができなくなる場合もあるので、時にはそれぞれがクレートで休む時間を設けたり、1頭だけフリーにして、もう1頭がクレートにいるというようにあえて別行動をとったりする練習をしておくことをお勧めします。どちらか1頭が足を怪我してしまって散歩に行けないというときに、元気な方の子まで散歩に行きたがらないということも起こり得ますし、1頭だけが入院してしまったときにもう1頭が落ち着かないということもあるのです。飼主がいれば、ハッピー、仲良しの家族の犬がいれば、なおハッピー。そんな関係で多頭飼いができれば、良い時間が増えること、間違いなしです。
私自身は、これまでに7頭の犬と暮らしてきました。家に犬が3頭または2頭同時にいた多頭飼いの時期もありました。1頭だけのこともありました。多頭飼いも、1頭飼いもそれぞれ良いところがありました。犬が1頭だけの生活では、その犬とだけ過ごす濃厚な充実した時間がありました。多頭飼いは大変なこともたくさんありますが、犬たちと良い関係を築いていると楽しいことも何倍にも感じました。これから犬を増やすことを考えている方には、このコラムをご参考に、ご自身に、そして犬たちにベストな選択をして頂きたいと思っています。
Can ! Do ! Pet Dog Schoolインストラクター
CPDT―KSA
川原志津香