あなたに合った猫を迎えよう
〜猫種の特徴と遺伝性疾患編
猫を迎える方法には、ペットフード協会「令和元年 全国犬猫飼育実態調査」を参考にすると、「自分で猫を保護する」「友人・知人から譲り受ける」が多い傾向にあります。ほかに保護された猫を迎えるには、自治体の動物愛護管理センター(東京都では「東京都動物愛護相談センター」)や保護団体などのもとで保護・収容されている飼い主のいない猫を迎える方法もあります。
その一方で、猫種ごとの特徴が表れるように繁殖されている血統書つきの「純血種」を、ブリーダーやペットショップなどから迎えることを検討する方もいるかと思います。実際、日本国内での近年の傾向として、純血種の飼育の割合が微増傾向にあるようです(2019年は18.8%、上記と同調査より)。
そんな純血種を迎える前に知っておきたい、代表的な猫種の特徴と必要なお世話、遺伝性疾患についてお話しします。
特別なケアが必要な品種が多い
純血種を迎えるメリットには、猫種ごとにある程度の性格的な傾向があるため、飼ってからのコミュニケーションが想像しやすいといった点があるでしょう。ただしその見た目や毛の長さなどの特徴には人為的な改良が加わっていて、中には人のケアなしでは生きていくことが難しい猫種もいます。
ただ「人気」「見た目がかわいい・おもしろい」「ペットショップで目が合った」「保護猫と違って迎える際の条件がなくて楽」という理由ではなく、ケアに割く手間や時間、費用も想像しながら、「本当にその猫種のケアを自分や家族が生涯行うことができるか」を、じっくり考えましょう。
飼い方に注意したい猫種の例
- 遊び好きの猫種:アビシニアン、ベンガル、マンチカンなど
好奇心旺盛で活発な猫種は、積極的に遊ばせないとストレスになりやすいので、遊ぶ時間をたくさんとる必要があります。
- 長毛の猫種:ペルシャ、メインクーン、ラグドールなど
毛の絡まりや「毛球症(飲み込んだ抜け毛が胃で塊になって、さまざまな症状を引き起こす病気)」予防に、毎日のブラッシングを。とくにペルシャは舌が短くてうまく毛づくろいできないうえ、毛が細く柔らかいので絡みやすいため、丁寧なブラッシングが必要です。
- 鼻ぺちゃの猫種:ペルシャ、エキゾチックショートヘアなど
マズルの形が特徴的で、鼻涙管(びるいかん)の閉塞によって、目頭が涙で汚れやすいです。清潔さをキープするなら数時間おきに拭う必要があり、在宅が短い人には向きません。
- 耳が特徴的な猫種:スコティッシュフォールド、アメリカンカールなど
スコティッシュフォールドの垂れ耳は耳道が狭いうえ通気性が悪く、アメリカンカールの反り耳は内部構造が複雑です。汚れがたまりやすく、放置すると「外耳炎」になりやすいので、こまめに耳掃除を行います。
- 毛がない猫:スフィンクスなど
皮脂がベタつきやすいので、優しくこまめに体を拭くお手入れを。また、寒さに弱いので、冬には洋服を着せたり、暖かい居場所を用意するなど体温キープのための工夫が必要です。
遺伝性の病気「品種好発性疾患」を知ろう
純血種には、親から受け継いだ遺伝情報が何らかのきっかけで傷つくことでかかる遺伝性の病気「品種好発性疾患」のリスクがあります。猫の種類ごとによってかかりやすい病気が異なり、生まれつき症状がある場合もあれば、成長に伴って進行するものもあります。
飼い猫のうち純血種が占める割合は2割以下(18.8%)ということもあり、9割近く(88.1%)が純血種である犬と比べると、品種好発性疾患の症例は多くありません。こうした点からも、猫種ごとにかかりやすい病気の知識が、まだ広くは共有されていないということが想像できます。
また、新しい猫種も毎年のように誕生し続けているようです。迎えたい人自身がその猫種がかかりやすい病気や症状、治療方法をあらかじめよく調べ、通院や介護の覚悟まで持ったうえで飼うかどうか決めるようにしましょう。
たとえばよく知られている例として、スコティッシュフォールドがかかりやすい「骨軟骨異形成症(こつなんこついけいせいしょう)」があります。これは関節を保護する軟骨が硬くなってしまう病気で、特徴的な折れ耳であれば必ずかかるという報告もあります。悪化すると痛みを生じ(程度は個体差が大きい)、痛みが強くなることで歩行困難になる猫もいます。
ただし注意したいのは、「人気猫種」×「外に症状が表れる」という“わかりやすさ“から、「遺伝性疾患といえばスコティッシュフォールド」と象徴的になっているという面もあります。ほかのどんな猫種であっても、血統を安定させるために血が濃くなり、繁殖過程で遺伝性疾患にかかる可能性があることは知っておきましょう。
代表的な品種好発性疾患とかかりやすい猫種
- 肥大型心筋症:心臓の壁が厚くなって、体に血液が送られにくくなります。
→メインクーン、ラグドール
- 多発性嚢胞腎:腎臓に多数の嚢胞(のうほう)ができて、腎臓の機能が落ちます。
→ペルシャ、スコティッシュフォールド
- 漏斗胸(ろうときょう):胸部の肋骨が変形して、胸がへこんでしまいます。
→ベンガル
- ピルピン酸キナーゼ欠損症:酵素の一種「ピルピン酸キナーゼ」が足りず、赤血球が破壊されて貧血を起こします。
→アビシニアン、ソマリ、シンガプーラ
「ミックスなら強い」わけではない
一方で、純血種に対してミックス(雑種)のほうが「体が強い」「長生き」といわれるようなこともありますが、ミックスの多くは外で飼い主のいない猫の子として生まれ、寒さに耐え切れなかったり、感染症にかかったり、たくさんの命が失われています。生き残ることができた猫は、その時点で生命力が強い個体。生命力が強い者同士からは、また強い猫が生まれていきます。
こうした点から、「ミックスなら強い」というよりも、「無事に人に飼われるようになった猫は、生き残った強いミックス」であるといえるでしょう。たまたま交通事故に遭わなかった“運のよさ”や、「保護期間中に献身的なお世話や適切な獣医療を受けることができて命の淵から回復した」といった経緯なども関わっています。
一方で、屋外で感染した猫白血病ウイルスが原因でリンパ腫を発症するケースがあったり、あるいは、全身が白い毛で青い目をもつ猫は難聴の可能性が高い傾向にあったりするなど、ミックスであってもそれまでの環境や体の特徴による要因が、疾患に関わっている例もあります。
だからこそ「ミックスだから丈夫」と一括りにせず、「どんな猫にでも適切な健康管理が必要」と考えたうえで、猫を迎えるようにしましょう。
文・本木文恵(猫の本専門出版「ねこねっこ」代表)
協力/東京猫医療センター 服部幸院長