ペットロスを考える
ペットロスのその先に
「ペットロスに備えて今できることは何ですか?」と、現在ペットと暮らしている方々から、このような質問を受けることがあります。今できること、それはペットに精一杯の愛情を注いで一緒の生活を楽しむことです。そして、各自が出来る範囲で、してあげたいと思っていること、たとえば、世話やケア、散歩に行く、ブラッシングをする、一緒に過ごす、遠出するなどをしてください。別れが訪れたときに、できる限りのことをしてあげたという自負が支えになると思います。それまでに共に積み重ねた多くの思い出が、亡くなった後もペットとの絆を結び続けてくれます。

大切なものの喪失は耐えがたく、悲しみや苦しみに圧倒される辛い経験です。生きていれば誰しもが避けて通れない道のりなのです。しかし、失った存在の大切さを実感する機会でもあるのです。さらに、そこから学び、再生し、生み出されるものもあるのです。ペットロスのような辛く悲しい経験を乗りこえると、人格的に成長することが指摘されています。悲しみの深さは愛情と表裏一体であり、愛情を注げば注ぐほど悲しみは深くなりますが、この人格的成長も大きくなると考えられます。
ペットを失った方を対象とした調査研究を行った結果、「ペットは人生の喜びをもたらしてくれた」、「生きること、老い、死を教えてくれた」、「子どもの情操教育につながった」、「成長させてくれた」などの語りがみられ、以下のようなペットロス経験による人格的成長が見出されました。
- 失った対象が与えてくれた大切なものを実感する
- 深い感謝を感じる
- いのちの大切さを実感する
- 他者への悲しみの共感性が増す
- 人間的に成長する
これらは、その後の人生の糧となる重要な経験なのです。失った対象との絆は続き、心の中に生きていて、思い出すといつでも会える、人生を見守ってくれる存在となるのです。
悲しみのトンネルの先には、失った対象と紡いできた経験が与えてくれる贈り物も待っていると信じています。
追記
さらに詳しく知りたい方は、『「ペットロス」は乗りこえられますか?心をささえる10のこと』(KADOKAWA)をご参照頂ければ幸いです。
略歴
濱野佐代子(はまの さよこ)
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科教授。博士(心理学)。獣医師、公認心理師、臨床心理士。放送大学客員教授。
同大学獣医学科卒業。白百合女子大学大学院博士課程発達心理学専攻、博士(心理学)。専門は人と動物の関係学、生涯発達心理学。
著書に『人とペットの心理学-コンパニオンアニマルとの出会いから別れ』(北大路書房)、『「ペットロス」は乗りこえられますか?-心を支える10のこと』(KADOKAWA)、共著に『日本の動物観-人と動物の関係史』(東京大学出版会)、分担執筆に『新乳幼児発達心理学第2版-子どもが分かる好きになる』(福村出版)など。
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