子供と犬がともにハッピーに暮らすために
〜家庭犬しつけインストラクターからのアドバイス〜
「子供と犬が仲良くできないのです。」そんなご相談を受けることは少なくありません。そんなご相談を受けるのは、幼稚園から小学生ぐらいのお子さんのいるお母さんからのことが多いのですが、実際に自分が母親になってみると、子供と犬とが一緒にいる場面では、ヒヤリ、ドキリとする出来事が多いことがよくよく理解できました。
寝ている新生児が気になり、犬がベビーベッドを覗き込んで、匂いを嗅いだり、赤ちゃんの手足を舐めようとする。ハイハイをしだした子供が、逃げる犬を追いかける。子供が遊んでいる音の鳴るオモチャを犬が欲しがる。犬が遊んでいるオモチャを、子供が手を伸ばして取ろうとする。
近くに寄ってきた犬の毛を子供がつかみたがる。ハイハイからつたい歩きし始めた子供の足元がおぼつかなくて、転んだ拍子に犬の尻尾を踏んでしまう。子供が食べているものを落とすと、犬が拾って食べてしまう。犬が食事をしていると子供が興味を持って犬の食器に手を伸ばそうとする。犬が子供の手からおやつを奪って食べてしまう。子供が犬のリードを持って散歩したがる。これらは我が家で実際に起きた、子供と犬がいる場面での日常的なヒヤリ、ドキリ出来事の例です。
家族に犬がいるということは、子供にとってはたくさんの学びにつながり、心の成長にも大きく貢献します。子供はその年齢に応じて、犬にも気持ちがあること、犬も食事をとり、排泄をすること、犬も病気になること、犬の命にも限りがありいずれ死んでしまうことなどを感じ、学ぶことができます。犬とのふれあいを通じて、相手を大切に思い、限られた時間を共に楽しく過ごすことに価値を見いだすことができるようになります。そんな学びの機会を持つために、子供と一緒に成長してほしいと子育て世代が犬を家族に迎えることも多いのですが、実は子供と犬とが仲良くできるためには、大人がきちんと管理してあげることが必要です。放任主義ではお互いを危ない目に合わせることにもなりかねません。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)に拠れば、犬の咬傷事件の犠牲者で最も多いのは、5歳から9歳の子供であり、また咬傷事故を起こした犬は、子供にとって身近な犬(家族や友人の犬)が多いのです。せっかく家族に迎えた犬に噛み付かれてけがをしてしまうというのは悲しいことですし、避けられるべきです。
では、どうすれば良いのでしょうか?犬と子供が共に楽しく過ごせるためには、どちらかだけが我慢する形は避けたいものです。いくら子供のために犬を家族に迎えたからといって、子供が犬のことをぬいぐるみのように好き勝手して良いわけではありません。また、ヤンチャな犬だから仕方ないとやりたい放題させるわけにもいきません。子育てで余裕がないという時期に子犬育てもしなければいけないとなると一番負担がかかるのは親御さんですから、家族のサポート体制も十分か、しっかり考える必要もあるでしょう。
もし子犬を迎えるのであれば、生後3ヶ月齢の社会化期の間に人間社会の色々な刺激に慣らす社会化をきちんと行いましょう。子供たちが大きな声をあげたり、突然走り出したり、おもちゃを振り回しても怖がらないように、ご褒美も上手に使いながら慣らしていきます。また、追いかけたり飛びついたり噛みついたりすると子供たちが大騒ぎして走り回るのが面白くて子供を追いかけるようになる犬もいます。子供たちが犬のおもちゃのようになってしまう前に、犬の有り余るパワーを発散するように引っ張りっこ遊びを上手に活用しましょう。また基本的なしつけの中でも、オスワリ、オイデなどをきちんとできるようにしておくと、興奮して子供に飛びついたりしそうになっても落ち着かせやすくなるでしょう。
子供たちには、犬をぬいぐるみ可愛がりしないように教えてあげましょう。ぎゅっと抱きしめる。顔を近づける。ずっと撫で続ける。いずれも、犬にはストレスです。子供の年齢にもよりますが、先に出た犬の咬傷事故に遭いやすい年齢5歳から9歳ぐらいの子供はある程度話を理解できる年齢です。教えるときのオススメは、「〇〇してはダメ」というのではなく、こういう風にしてみようねと正解を伝えることです。「乱暴に触っちゃダメ!」というのではなく、手の平を開いて「バイバイ」するみたいにパーにして、その手で犬のことをそっと気持ちよく触ろうね、と具体的に伝える。触るのは短めに1、2、3と数えて一度やめて、犬が嫌がらなければおかわり1、2、3。顔を近づけると怖がるから、顔は近づけない。目もじーっとは見ないで、体全体を見てあげてね、という風にです。こうするとダメ、ああするとダメ、それは間違い、また違う、などとダメ出しをしていくと、子供は隠れてそれを行うようになる場合があります。一方、正解を教えると、得意になって、正しいことをやって見せて、褒めてもらうことを喜びます。また、犬も子供も同じですが、最初は上手にできなくても、辛抱強く大人が付き合って教えてあげることで、繰り返しの中で少しずつ上達するものです。
子供も犬も楽しくなる遊びを取り入れることも、子供と犬が仲良くなるための近道になります。少し大きめのぬいぐるみやボールなどのおもちゃを準備し、おもちゃに長めの紐をつけておきます。犬におもちゃを見せて、投げる役は子供が担当。犬が追いかけ、おもちゃを持ってきてくれたら、少し引っ張りっこ遊びをして、おもちゃを口からチョウダイ、と離させるのは大人が担当します。子供が投げて、犬が持ってきて、大人が回収、また子供が投げて・・・と繰り返しながらチームワークのような連携プレーを楽しむことができます。楽しい遊びは、飽きるほどやらないこともワクワクする関係のポイントになります。もう少し遊びたかったのにというぐらいでおしまいにしておもちゃを片付けるようにすると、次に子供がおもちゃを取り出したときに犬は楽しい遊びが始まるとワクワクしながら子供について歩き、一緒に遊んでくれる存在として子供との距離を縮めていくことでしょう。
一緒に散歩に行くのも楽しい時間の一つでしょう。でも、子供にリードを渡してちゃんと面倒みなさいよと任せてしまうのは考えものです。万が一犬が散歩中に他の犬や走り去るバイクや自転車を見て興奮して吠えたり走り出したときに、子供は制御できず、転倒してしまったり、リードを手から離してしまうかもしれません。もし自分がリードを離したために犬が道路に飛び出して交通事故にでも遭ってしまったら、子供の心には一生トラウマが残ってしまうかもしれません。
就学前の子供や小学校低学年の子供がリードを持ちたがるときには、リードの先端を子供に持ってもらい、子供と犬の間の部分のリードを大人が持つようにしてみましょう。または犬にリードを2本つけて、長い方を子供に担当してもらい、短い方を大人が持って一緒に散歩するようにしてみてください。
ここでも、禁止するのではなく、まず、親が上手な持ち方のお手本を見せて、一緒に行う方法を提案してあげると、子供も歩み寄りやすいと思います。上手にできたら、大げさなぐらい褒めてあげることもお忘れなく。子供は大人にできることを認めてもらえたことに自信をもち、一層お手伝いしてくれることになると思います。
話が理解できないぐらい小さな子供がサイズの大きな犬や子供が苦手な犬と一緒に暮らしている場合、ヒヤリ、ドキリのリスクが高まります。何か起きてしまってからでは遅いですから、そのような場合は、生活スペースを離すことも有効です。我が家では娘がハイハイするようになった頃、目を離すと思わぬ遠いところまで犬を追いかけて行ってしまうことがあったので、私がつきっきりで見ていられないときのために、娘の遊び場を作り、サークルで囲いをして、その中で安全に遊べるようにしました。また娘がサークルの外で遊んでいるときには、犬たちをクレートに入れておくこともありました。
子供のいる家庭では、ハプニングがつきものです。食器を落として割れてしまった。牛乳がこぼれて床に飛び散った。薬をばらまいてしまった。レゴが散乱した。そんなときに、「ハウス」のひとことで犬を安全な場所に退避することができたり、子供の友達が家に遊びにきたときに子供達に取り囲まれてしまうのを防ぐことができるクレートのトレーニングは必須です。閉じ込めるのはかわいそう、と思ってクレートトレーニングをしなかったために、犬が誤飲してしまった、ガラスの破片を踏んでしまったという話もよく聞かれます。子供と犬の安全を守ってあげられるのは親だけですから、諦めずにぜひ頑張って頂きたいです。
子供と犬の間に立ってあちらもこちらも目配りしなければならない大人はとても大変です。全て自分でやらないとと頑張りすぎると大人の方もストレスを感じてついつい声を張り上げてしまいそうになりますが、身近なところにしつけ教室がある場合は、犬の基本的なしつけについてアドバイスを受け、家で子供とも一緒に楽しく練習ができるような流れを作ると良いかもしれません。子供と犬がともにハッピーに暮らすためには、大人もハッピーでいることが大切です。「うちの子たち、仲良しで微笑ましい、可愛い」と目を細めてみていられる関係が築けると本当に幸せな気分になります。
これから犬を迎えようかという方は、以前のコラム「愛犬の選び方」や「保護犬の迎え方」もご参考にして頂ければと思います。小さな子供のいる家庭に成犬を迎える場合は、小さな子供が苦手ではない犬を迎えるのが良いでしょう。長年一緒に暮らす家族選びもまた時間をかけて、ご縁を見つけたいものです。
大人に見守られて成長した子供と犬とは、きっと素敵な関係を築くことができ、そんな絆を犬との間で感じることができた子供は、将来自分が大人になったときに、また家族に犬を迎えたいと思うかもしれません。子供と犬の明るい将来のために、今回のお話がお役に立つことを願います。
東京都動物愛護推進員
Can ! Do ! Pet Dog Schoolインストラクター
川原志津香