すべての飼い主さんが考えたい”万が一の備え“
ペットとの楽しく幸せな暮らし。犬や猫がいる生活は、もはや当たり前の日常。そんな日常が突然終わるかもしれないということを、どれだけの方が考えたことがあるでしょうか。
「万が一、私がいなくなったらこの子はどうなる?」
この先を読み進める前にご自身の場合を考えてみてください。
もしも今、あなたが突然死んでしまったら、愛するうちの子はどうなるか想像できますか?
①万が一の時に頼れる人
自分に万が一のことがあったら、あなたには、大切な“うちの子”を託せる人はいますか?
一緒にいる家族が面倒みてくれますか?
実家の家族が引き受けてくれますか?
猫好きの友人に頼むことができますか?
「飼い主さんが病気で亡くなり、引き取り先がなく保健所へ連れて行かれる猫」
「一人暮らしの飼い主さんが孤独死で発見され、ごはんも水もなくなり衰弱死していた猫」
実際にこのようなケースはたくさんあります。
「自分は大丈夫。」
多くの方がそう思われているかもしれません。
しかし、さきほど例にあげた突然亡くなった飼い主さんも、一人暮らしの飼い主さんも自分がペットより先に逝ってしまうとは思っていなかったのではないでしょうか。
万が一の時に、うちの子のことについてお願いできる人、頼れる人を探してみましょう。
②万が一の時に頼む内容と方法
もし、今、頼める人が誰か思い浮かんだとしても、それで安心するのはまだまだです。
自分の万が一の時はどうやって頼みますか?
事前に、万が一の時は頼みたいと伝えていますか?
具体的に、何を頼みますか?
万が一の時、自分にはもう意識がないかもしれません。亡くなっているということもあり得ます。病気になり、頼める状況にないかもしれません。
もし、万が一の時にうちの子を託したいという人がいるのであれば、「元気な今」に、事前にしっかりと話をすること、そして頼みたいことを書面に残しておくことがとても重要です。
想いを書面で残す方法「公正証書遺言書の作成」
「万が一の時」で一番に思い浮かぶのは「亡くなった時」でしょう。
「年齢的に自分にはまだ関係ない話」と思うのは危険です。
「外出先で事故にあった」「病気になった」などは年齢に関係ありません。
飼い主さんの年齢に関係なく、万が一は突然やってくるものです。
「自分がいなくなっても、家族がいるから問題ない」と思っていたのに、自分が亡くなった後、相続人同士で相続財産の分配の話し合いで折り合いがつかずペットが後回しになるというのはよくある話です。
逆にペットの存在が相続財産の分配でもめる原因の一つになることもあります。
自分が亡くなった後に、財産を誰にどのように渡すかの詳細や、残された相続人などへ想いを記す方法として、遺言書があります。
相続人の誰かに、万が一の時のペットのお世話を頼んでいたとして
その人に御礼として多めに相続財産を分配したい場合は、遺言書にその旨を記さなければお世話をする相続人が多めに財産を受け取ることは難しいことです。
「お世話を引き受けてくれる人にしっかりとお世話をしてもらい、ペットが幸せに暮らせるよう財産を多めに分配し、ペットにも残したい」という想いだけでは、ペットのお世話を引き受けてくれる人が他の相続人から攻められる原因にもなりえます。
例えば、自分に万が一のことがあったら、妹のA子に愛猫をお願いし、相続人の中でA子にだけ多めに相続させることを記載します。そして多めに相続させる理由も記載しておけば、他の相続人の不満の矛先がA子さんに行くことや、相続財産の分配をめぐる相続人間のトラブルも極力避けることができます。
想いを書面で残す方法「信託契約書の作成」
近年、「飼い主の死亡でペットが飼えなくなった」という理由だけでなく、
「生きているけど、一緒に暮らせない。飼えなくなった」という理由でペットが手放されるケースも増えています。
遺言書は、亡くなった時にしか効力がありません。
そこで利用できるのが「信託契約書」です。
信託契約の場合は、「自分が死んだとき以外」の万が一にも対応可能です。
高齢の飼い主さんで考えられる万が一
- 介護施設の入所に伴い、一緒に暮らせなくなった
- 認知症になり、お世話が難しくなった
- 病気で通院が頻繁になり、お世話が難しくなった などなど
それ以外でも
- 突然の不慮の事故
- 突然の入院、病気の発覚
こんな、飼い主さんの年齢に関係がない「万が一」にも対応できるのが信託契約です。
信託契約は、契約をして協力してくれる第三者の存在が重要になります。
飼い主さんが、信頼している家族や友人と信託契約を結び、専用の口座に「万が一の時のペットの生活費」をためておきます。
万が一自分がペットと暮らせなくなったら、信託契約書に基づき、口座のお金を引き出してあらかじめ決めておいた引受先にペットを託し、飼育費として渡すことが可能です。
万が一のときに、時間のロスなく、ペットを引受先に託すことができるので安心です。
③万が一の時に頼む人がみつからない
万が一の時にペットのお世話をお願いする人がいれば、遺言書や信託契約などで、その想いを書面に残せますが、「頼める人がいない」という飼い主さんも実は多いのです。
- 家族がいても、頼りたくない。迷惑をかけたくない。
- 家族は犬が苦手、猫が苦手。
- ペット不可住宅に住んでいるからお願いできない。
様々な事情で、家族がいる方でも、万が一に頼れる相手がいないという声をききます。
そんな方は尚更、ご自身が元気なうちに、託す先を探しておくことが大切ではないでしょうか。
少し前は珍しかったですが、現在は老猫ホームや老犬ホームなども全国に増えてきていますので、このような施設を検討することも視野にいれてもいいかと思います。
お住まいの地域の近くに、このような施設があれば、ホームページを見てみましょう。
どのようにお世話をしているのか、そしてどんな人がお世話をしているのか、自分と考え方が合うかなどは、施設を探す上で重要な部分です。施設を見学できるのであれば、したほうがよいでしょう。
④うちの子のために何を残すかを考える
飼い主さんの万が一の時に、うちの子のために何を残しておくかも考えておかなければなりません。
残しておくものは、すぐにペットの飼育費として使えるお金が一番良いかと思いますが、自宅などの不動産も残すということも、遺言書や信託契約では可能です。
犬・猫それぞれについて、病気の治療費やフード代、トリミング料といった各項目にかかる費用を調べたところ、犬では約34万円、猫では約16万円が年間飼育費として必要という結果が出ています。(アニコム損害保険株式会社ペットにかける年間支出調査 2020)
ご自身が今、ペットに何をしてあげているのかを考えて試算をしてみるのをお勧めします。
犬34万円、猫16万円というのは、あくまでもアンケートによる平均値になります。
例えば腎臓や肝臓に疾患がある子は特別療法食が必要になったり、食物アレルギーがある子は専用のフードをあげていたりしますので、フード代も、その子によって年間にかかる費用は全く異なります。
病気の治療費に関しても同様です。年齢を重ねていくにつれ、病院に行く回数は増える傾向にありますので、治療費は余裕をもって試算しておきましょう。
⑤うちの子のことを伝える準備「うちの子ノート」
フードや病気の治療についてもそうですが、皆それぞれに性格があり、好きなものや嬉しいもの、苦手なものや怖いものがあります。
飼い主さんは、一緒に暮らして当たり前に知っている事でも、万が一の時にうちの子を託す先の施設や第三者はそのことを知ることはできません。
自分がいなくなっても、今までと変わらずにうちの子には過ごしてほしい。うちの子をわかってもらってお世話をしてほしい。
その想いを込めて、うちの子ノートを書いておきましょう。
うちの子ノートは、ペット版のエンディングノートのようなものです。
フードの種類や1日に与えている回数や量、病歴のほかにもワクチン証明書やこれまでの病院での検査の記録なども一緒に保管しておくとわかりやすいかと思います。
信託契約と遺言書で万が一に備えた実例
50代の飼い主さんは1匹の愛猫と暮らしていましたが、ご自身の病気が発覚し、「自分が愛猫を最後までお世話することはできないかもしれない」と準備を始められました。
飼い主さんにはご兄弟がおられましたが、同じく病気を抱えておられたため、第三者で愛猫を安心して託せる先を探し、老猫ホームとしても機能している私が運営している「里親募集型の保護猫カフェ」にたどり着かれました。
信頼できるご友人と何度もカフェに足を運ばれ、保護猫カフェにいる猫たちの様子などを見て、万が一の時はここにお願いしたいと思われたそうです。
その後、信託契約書と公正証書遺言書を作成し、ご自身に万が一の時は、愛猫は保護猫カフェに託すこと、その飼育費は信託契約書を作成した際に作った、専用口座から出金すること、万が一のことがあった時は、ご友人からカフェに連絡をいただくことなどを取り決めました。
また、遺言書には残された家族への想いと共に、信託契約書で愛猫のために自身の財産を残したことや協力してくれたご友人へ御礼として遺贈するものなどを記載されました。
契約書を作成した約3年後、飼い主さんは闘病の末に旅立たれました。
最期の時まで自宅療養で過ごされた飼い主さんのベッドのそばにずっといた愛猫さん。旅立たれた後は、信託契約書と遺言書のおかげでスムーズに保護猫カフェへの受け入れもできました。愛猫さんは今も保護猫カフェで元気に暮らしています。
例外なく、すべての飼い主さんが考える事
一般社団法人ペットフード協会が発表した「令和2年 全国犬猫飼育実態調査」によりますと、犬全体の平均寿命は14.48歳、猫全体の平均寿命は15.45歳という結果が出ていました。今後は更に、動物医療の発展にともない犬も猫も長寿化していくと考えられます。
自分が万が一いなくなっても、愛するうちの子には、元気で長く生きてほしい。
そのためにも、ペットと暮らしている誰もが、自分事として万が一の時のうちの子のことを考える対策をしておくことはとてもとても、大切なことです。
行政書士かおる法務事務所 どうぶつ系行政書士
一般社団法人ファミリーアニマル支援協会 代表理事
里親募集型保護猫×古民家カフェ Cafe Gatto 総支配人 磨田 薫