ペットと楽しく暮らす家づくり ~犬と猫と住むということ~
視線や指差し行動を理解するなど、犬猫はヒトに似た社会的スキルを身につけています。例えば、視線でのコミュニケーションがとれる関係です。犬猫は、ヒトの視線を読み取って、オヤツを探す手がかりとしていたり、自分では解決できない問題を、ヒトの顔を見て助けを求めたりしてきます。私達が一方的な愛情を感じているのではなく、犬も猫もヒトの思いをくみ取ろうと、積極的に働きかけ、また、常に努力している、とも言えると私は思っています。
ヒトと犬猫が共に暮らす快適な住まい
環境省の『住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン』(2010)では、ヒトと犬猫が共に暮らす快適な住まいは、都市のトラブル防止と共に動物の福祉の観点から重要であることが示されています。動物の福祉の住環境としては、「床材の配慮」「室内の温度、湿度管理」などがあげられています。快適性に向けては、それに加えてストレスにも繋がりやすい「音」といった配慮が重要で、これは家庭内だけでなく、近隣への「吠え」という騒音トラブル防止にも繋がるので重要と考えています。住まいの快適性は、ヒトと同時に犬猫にも向けるという、動物の福祉にそった環境整備を考えていきたいですね。犬の都合、猫の都合を踏まえた福祉環境の整備は、ストレス行動での室内を傷つけたり、トイレの失敗や不適切な場所への排泄(尿によるマーキング)を防ぐことにもなるので、結局は「美しい住まいと楽しい我が家」への近道なのです。
犬猫に必要な環境整備では、「ゆっくり眠れる場所」「使いやすいトイレ」「危険な場所への立ち入り禁止、飛び出し防止」、また先に上げた室内の汚損対策がありますね。しかし、それは、全体の中の部分(ミクロ)な視点です。「ヒトも犬猫も快適で楽しく暮らすには?」と考えれば、もっと住まいの全体像、俯瞰的(マクロ)な視点で課題を見てみた方が良さそうです。
「ストレスを溜めないような、健康な室内環境を維持できていますか?」
「彼らの居場所(寝場所)は、家族から孤立させていませんか? そこは、安心して寛げる場所ですか?」
ここでは、そんな全体の暮らし方から考えてみましょう。
住まいの中の「犬の都合」「猫の都合」
私が、住まいの計画をするときには、ヒトの「清潔で落ち着いて過ごしたい」「家事を便利にしたい」などといった要求(都合)と共に、犬猫にもそれぞれの都合やヒトへの要求があると考えて、空間作りで配慮と工夫をしています。例えば、犬がヒトの家族に向けて思っていることは、「ヒトの気持ちや意図を正しく理解したい(褒められたい)」、「ヒトに、いつも笑顔で接して欲しい」。また、猫は、完全室内飼育では、運動と心の刺激が不足しがちなので、キャットタワーや家具などの配置を工夫して室内で楽しく運動できるようにして欲しい、などです。しかし、ヒトの「良かれ」と思った工夫なのに、犬や猫にとってはピントのずれた提案で、犬は失敗が減らず、猫は喜んで使ってくれない、という残念な事があるようです。
そこで、住まいに向けての「犬の都合」「猫の都合」の基本と、その対応について次の様に整理してみました。
犬の都合(犬の三大要望)
- 要望1
- 家のルールを判りやすく示して欲しい。だって、言葉はわからないから。(触っちゃいけないなら、触らなくて良いように、しまっておいて)
- 要望2
- 落ち着いて過ごすための、安全な居場所が欲しい(自分のペースで理解する時間と場所を持ちたい)
- 要望3
- たくさん共同作業(遊び)をしたい
犬にとっては、室内は判らないことばかりですが、前向きに努力しているので、その気持ちを後押しするよう、環境を整理してほしい、そして、一緒に何か活動(遊び)したいのだと考えれば、住まいのプランニングで行っておきたい基本事項は次の様なものとなります。
- 対応1
- 人の気持ちや指示(つまり、家庭のルール)を、犬にも理解しやすいように、形として空間を整理(居場所の配置・収納の確保・内装や家具の素材選び)する。
- 対応2
- 冷静に判断し落ち着くため、安全で快適な「隠れ家」のある居場所(ハウス)を用意する。(図1)
- 対応3
- ふれ合いながら、効率よく学習するための、相互活動スペースを用意する。(図2.3)(リビングやハウスの横で、ヒトと毎日頻繁に、そして、コツコツ遊べるように。子犬から老犬まで通して使う)
「隠れ家」のある居場所(ハウス)の内部の設えは、トイレトレーニングの最中や超高齢期での介護が必要になる時期も活用できるよう、排泄の失敗があってもよいように水拭き掃除がしやすくしておきます。床や壁は爪で傷つきにくい仕上げが望ましいので、磁器タイルなどが代表的な内装床仕上げになります。犬の体温調整は腹部を床などに接触することなどでも行っており、タイルはこれに対しても有効でしょう。(図4)
猫の都合(猫の三大不満)
- 不満1
- 「ヒトの空間は単調」…鳥もネズミもいない = つまらない、失業で退屈
- 不満2
- 「同居猫がいる…紳士的につきあいたい」 = 独りで過ごす時間が大切
- 不満3
- 「大動物(ヒト)との同居は困惑」 = 近寄りたくても蹴られそうで、おちおち挨拶もできない。
このように、猫にとって、ヒトとの住まいは「空間が単調」とか「仕事がない」とか刺激不足に陥りやすくて、さらに、「同居猫」や「常識の違う大きな動物」の動きに驚かされたり、苦労している、それが、環境の課題としてあると言えます。
これに応えるためには、プランニングでは、「室内で退屈されないように」「猫同士の社会活動が健全に営まれるように」「ヒトに安全に近寄れるように」ということを考えます。家具配置を利用して、またはキャットタワーやキャットウォークといった「猫通路」で上下運動を行えるように工夫する(図5.6)のが一般的ですが、私は、これを家の中も「街」のように設えます。
- 対応1
- 室内でも退屈させないように、空間数を増やし、さらに、色々な角度から部屋を観察できるように、高低差を使った通路を創る。街歩きで休むCaféのように、通路の所々に立ち留まり、寝そべったりして空間を眺める、「立ち留まり」ポイントを設ける。(図7)(立ち留まりポイントは、軽く寄りかかれる壁があれば、高い場所でうたた寝しても落ちずに安心)
- 対応2
- 猫同士の社会生活が健全に営まれるように、猫通路には交差点や脇道を設けて、猫社会の通行ルールが適用できる状態にする。
- 対応3
- 筋肉を多様に動かす運動ができるように、昇り方の違う複数のステップ(なだらか、大きい段差、よじ登り、など)で昇降路を設ける。(図8)
- 対応4
- 落ち着いて空間を観察し、安全確認できるように、ホコラ状の控室のような「隠れ家」を確保する。(猫自身のタイミングと距離間を尊重し、無理なくその空間に馴染み、また、ヒトとふれあえるようになる)
さらに、「運動もできるよう」な機能も持たせたいと考えているので、これを私は「猫アスレチック」と呼んでいます。また、犬と同様に、独りで落ち着いてその空間の状況や家族の様子を観察できるようにと、「隠れ家」が大切だと思っています。犬と同じくホコラ状のベッドが欲しいですが、隠れ家機能を十分に発揮させるには、その外側にも空間を設けましょう。市販のケージが意外と便利なので、上手に取り入れてみましょう。
また、猫通路では街歩きをするのと同じように、様々な音や風、外部の匂いなどの刺激をえられるように、窓近くに休息でき「立ち留まり」ポイントがあることが望ましいですね。
そして、その猫通路をヒトと猫で楽しもう、と考えるならば、猫の通路は、人に安全に近寄れるように、廊下などの人の生活動線にそって配置すると、人と猫の絆を結びやすくなりますよ。
猫通路の注意点としては、高所や窓近くでは、誤って飛び出ての転落や迷子にも繋がるので、安全対策が必要です。また、脚立などを使わないと人の手の届かないような高い場所では、掃除が不十分になるだけでなく、通院や災害時の避難といった緊急時に、猫の捕獲ができないので、設置はひかえましょう。
居場所の位置関係
犬の都合、猫の都合に対応するプランニングでも、「居場所」が家族との関係を確立する重要点であるということが共通事項でした。孤立させたり、騒音がする場所では問題です。不安感やイライラによるストレス行動は、この位置を見直すことでも減らしてあげられるので、最初に考えてあげましょう。
居場所では、お互いの姿が確認できる場所が理想的ですが、日常の犬の居場所としているのは、大抵家族が集まるリビングになると思います。しかし、リビングに居れば安心と言うわけではありません。
そこで、一つの事例から課題と対応を見てみましょう。ある小型犬の飼い主さんからこんな相談を受けた事があります。
「和室の襖を開けようとして傷つけるのです。丈夫で開けられないようなものはありませんか?」
しかし、聞き取りを進めると、車や大きい物音に怯えて押入れに入りたがるようでした。いつ頃からそのような事があったかと記憶をたどってもらうと、どうやら、近所で工事が始まって、大型車が頻繁に家の前を通るようになった頃と一致しているようでした。そして、それ以前の様子として、「来客があると興奮して落ち着かないという事はありませんか?」と確認すると、そのとおりだと驚かれました。
実は、リビングにクッション状のベッドはあったのですが、広い空間に置いてある状態でした。犬にとっては何かあった時に落ち着くための「隠れ家」が必要ですが、潜り込むように隠れられる場所が無いので、大きな音がして怖かった時、潜り込める場所を探して和室の押入れに入っていたわけです。つまり、襖を取り替えるより先に、安全な場所として「ハウス」を与えてあげなければならないのです。
物音へのトレーニングをするのは、この環境ができてからです。怖い事や不審者が来たときに、自分で落ち着くことさえできれば、興奮して走ることも、吠えて鳴き止まないという事も減ります。
居場所の配置
紹介した困った行動例の、「和室」に逃げ込んでいたというのは、実は重要ポイントです。
私が対応してきたものでは、犬も猫も、押入(クローゼット)に隠れる、という行動が多かったです。和室は、リビングの隣に配置されている事が多く、この飼い主さんの家の場合もそうでした。つまり、家族の集まっている場所の様子が確認でき、かつ、少し暗くて、狭くて落ち着いている。そういったスペースと空間を意識してあげるといいでしょう。
配置関係の注意としては、窓のそばは寒暖の差が激しく外部音が入りやすい場所です。ヒトと同様に犬猫にも、短時間の気温差は体の負担になります。そして、窓や出入り口から入ってくる室外の音にも気を付けましょう。特に、犬にとっては窓から見える音も物陰も、それがただの通りがかりであっても侵入者です。それに対しては、家族に侵入者があることを伝える必要が犬にはありますし、場合によっては追い払おうとして、吠える事がふえてしまうのです。ですから、犬や猫の「居場所」(サークル・ケージ)は、窓や出入り口付近からは、少し離して設定するようにしましょう。
「イケナイ」という叱る事を減らす事が、お互いがストレスなく暮せるコツです。ですから、吠えてしまう「無駄な誘惑」を減らしてあげることが大切です。
犬猫の居場所の基本セットと、「隠れ家」の形
居場所の基本セットは「寝床=隠れ家」「食事スペース」「トイレスペース」「動き回るスペース」とされます(図9)。犬の場合はサークル、猫の場合は「猫ケージ(3段)」(図10)というアイテムが既製品で利用できます。また、トイレを、仔犬・仔猫の時期と高齢期以外では、寝床とは別にするという方法も可能です。
そして、「隠れ家」となる寝床には共通点があります。適度な狭さと柔らかさは、安心と暖かさを得るために必要なので、体のサイズにあったホコラ形状のベッドがお勧め(図11)です。通院や旅行でのストレス軽減に向けて、日頃使っているキャリーバックを寝床にも使っていると安心です。防災の観点からは、落下物から守られるために、ハードクレートであるとより安心でしょう。猫では、ヒトの腰高さ程度の少し高い場所にあっても喜ばれるので、棚などの一部に箱や扉付きのスペースを確保しても喜ばれます。(図12)
居場所での内装仕上げやゲートなどの建築的アイテムは、これらを補強する意味で使ってあげてこそ効果があるのです。
図11 キャリーバックやクレートを「隠れ家」として利用する
(図3.図4.図12: 設計/かねまき・こくぼ空間工房)
(図7.図8: 設計/入江剛史建築設計事務所 施工/株式会社NENGO 猫空間監修/金巻とも子)
家庭動物住環境研究家・博士(工学)・一級建築士
動物と暮らす住研究所 所長
一級建築士事務所 かねまき・こくぼ空間工房
[https://pal-design.jp/]
金巻とも子