犬の問題行動への対処方法
~家庭犬しつけインストラクターからのアドバイス~
犬との生活はとても楽しく、心が豊かになり幸せな気分にさせてくれます。横を見ればキラキラと輝く目でこちらを見つめる犬がいて、手を伸ばせば柔らかい毛に包まれた犬を撫でられる。犬と見つめ合うことで幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが上昇し、犬を撫でることで血圧が下がる、というように飼主の健康に良い影響を与えるという研究発表もあるほどです。
ところが、犬を家族に迎えた後、適切なしつけを行わないと、幸せな暮らしどころか、自分の犬に咬みつかれてしまう、吠え声が近所迷惑になるといった困りごとに発展してしまうケースがあります。「問題行動」、「問題犬」という言葉が聞かれるとき、犬が嫌がらせをしているから、犬がバカだから、といった不名誉なレッテルを貼られてしまうことがありますが、飼主と犬との間で様々なコミュニケーションの行き違いがあることがほとんどで、犬にもわかりやすいしつけを行うことで、問題行動は改善していくことができます。また、家に迎えて間もない子犬であれば、問題行動は未然に防ぐことができます。家庭犬に必要なしつけについて理解することが、楽しく幸せな犬との生活を手に入れるカギとなるのです。
一般社団法人ペットフード協会の調べでは、2003年に室内飼育の犬が外飼いの犬の数を上回りました。今や、大型犬でも室内で暮らすという時代ですが、一方で、室内で犬と暮らす歴史の短い日本人にとっては、いざ室内で一緒に暮らしてみると、トイレを覚えてくれない、家の中で色々なものを噛んで破壊する、いたずらが止まらない、抱っこやお手入れをしようとすると嫌がって咬みついてくるといった問題に戸惑うことが少なくないようです。
言葉の通じない犬に、正しいトイレの場所を諭しても次からできるようになるわけではありません。拾い食いは危険だからと口を酸っぱくして叱り続けても、これまた改善しません。犬は犬らしく振舞った結果、飼主から見ると好ましくない行動を取っているだけなのです。すれ違いが続いていくと、犬は飼主を嫌なことをしてくる存在と思ってしまい、家の中で飼主と犬とが対立する関係になってしまうこともあるのです。
人間の言葉を理解しない犬たちは、自ら体験したことを通じて学習を進めていきます。ある行動をとった結果、良いことが起きると、犬はその行動を繰り返そうとします。例えば、飼主の食事の時間にワンワンと吠えていると、吠え止ませるために犬用のガムを与える、散歩の時間にワンワンと吠えていると近所迷惑になるので急いで散歩に行くという生活をしていれば、吠えると良いことが起きる(犬用のガムがもらえる、散歩に早く行ける)ので、同じ状況になると毎回激しく吠えるようになってしまいます。
問題行動をどうにか解決しようと、飼主が犬を叱りつけたり、体罰を加えたりすれば、犬にとって飼主は怖い存在となり、飼主から逃げるようになったり、咬みついてくるようになったりすることもあるので、叱る、罰するというのはやめましょう。実は、家庭犬のしつけに必要なのは、厳しさでも、良いタイミングの叱り方、でもありません。様々な刺激を不安に思わないように慣らしていく社会化と、問題が起こらないような環境作り、そして、良い行動を起こしていたらそれを褒めて伸ばしてあげるということが大切なのです。先の例では、吠え始めたらどう対処するということではなく、吠え始めないような環境づくりをしていく、また良い行動を起こしていたら褒めることが大切です。
飼主の食事時間の前に、犬をクレートと呼ばれるプラスチック製の犬用のハウスに入れてご褒美をあげておくことで吠えにくくするという対処や、飼主の食事中、近くにいても吠えていないタイミングにご褒美をあげるという対処をしていけば、徐々に吠えていない時間を増やしていくことができるでしょう。散歩の時間になると吠えるのであれば、いつも同じ時間ではなく、吠えていないときに急に散歩に連れ出す、吠えているときは無視しておいて、吠え止んだら散歩に行くといった対処をしてみると良いでしょう。日常生活のちょっとした習慣や行動を変えるだけで、犬の問題行動が改善することも多いのです。
色々なところでしつけ相談会を開催していますが、お悩みを伺ってみると、ブラッシングしようとすると咬みついてくる、抱っこすると嫌がる、散歩後の足拭きをしようとしたら唸られた、といった話が最近よく聞かれます。人との生活で当然に必要なお手入れも、犬からすると何をされるかわからなくて不安になることもあります。家に迎えて間もない頃から、美味しいもの、楽しいこととセットで、上手にお手入れ慣らしもしていきましょう。小さい犬だから、二人掛かりで、押さえつけて、手早くやってしまおう…なんてことをしていると、次の回、その次の回は、ますます抵抗するようになってしまいます。お手入れも悪くないな、もうちょっとやっていいよ、と思わせるような上手な慣らし方をしていくことで、犬が年を取ったときにも十分必要なケアをしていく秘訣です。
家庭犬のしつけや問題行動の改善は、家族としてお互いにストレスが少なく暮らしていけるために必要なものです。すでに問題行動が深刻になってしまっている場合は、一人で頑張ることはお勧めしません。科学的な理論に基づいて褒めてしつける手法を用いる家庭犬のしつけ方教室にアドバイスを求めてみてください。穏やかで幸せな犬との暮らしに向けてのお手伝いをしてくれるはずですから。
東京都動物愛護推進員
Can ! Do ! Pet Dog Schoolインストラクター
川原志津香